仕事の依頼を流れる仕組みにするうえで、この記事が扱うのは返事を待っている間です。チャットに投げた確認が3日後に返ってくるとき、受け手が3日作業していたわけではありません。読むまでに2日、書くのに5分です。
この記事が答える問いは1つです。依頼を非同期で投げると、依頼はどこで止まるか。
3往復の見積依頼に、2日かかる
営業が設計担当に、チャットで「この構成で作れますか」と聞きます。翌朝、設計担当が「どの型番ですか」と返します。営業が昼に型番を送ります。夕方、設計担当が「それなら2週間です」と返します。
3往復して、2日が経っています。設計担当が実際に手を動かしたのは、型番を見て工数を見積もる20分です。
この2日は、どこにも数字として残りません。チャットには発言の時刻が並んでいますが、誰も「この依頼は返事待ちに1日半使った」とは集計しません。営業の手元に残るのは「設計は返事が遅い」という印象だけです。
依頼を受けた設計担当の側も、止めている自覚がありません。チャットを開いたときにまとめて返しているので、1件あたりの待ち時間は見えていません。
非同期とは、返事を出す時刻を受け手が決める形
会議や電話は、送り手と受け手が同じ時刻に居合わせます。これが同期です。チャット、メール、タスクのコメントは、送った時刻と読まれる時刻がずれてかまいません。これが非同期です。
ずれてよいということは、受け手が自分の都合のよいときに読むということです。言い換えると、返事が出る時刻を決めるのは受け手です。
依頼者から見ると、これは待ち時間の長さを相手が握っている状態です。非同期にすること自体は割り込みを減らすので、そこを否定する話ではありません。ただし、いつ返すかを誰も約束していない状態が同時に生まれます。
依頼が止まる場所は、受け手の作業の中ではありません。受け手がまだ読んでいない時間と、読んだが返していない時間です。
全社で非同期に寄せたとき、何が減ったか
マイクロソフトの研究チームが、2020年前半の6か月分のメール、カレンダー、チャット、通話、勤務時間を使って、全社リモート勤務が働き方に与えた影響を推定しています。対象は同社の米国社員6万1,182人です1。
この推定では、同期のやりとりが減り、非同期のやりとりが増えました2。同じ論文は、こうした変化が重なると、社員が新しい情報を手に入れたり社内に渡したりするのが難しくなる可能性がある、と書いています3。
先に限界を書いておきます。これは米国の1社のデータで、期間も2020年前半の6か月です。業種や国が違えば同じ数字は出ません。この研究から借りられるのは、非同期に寄せると何かが渡りにくくなる、という方向だけです。
では、何が渡りにくくなるのでしょうか。ここを分けないと、「非同期をやめて会議を増やす」という逆向きの打ち手に行き着きます。
伝えるだけの依頼と、意味を揃える依頼を分ける
Dennis、Fuller、Valacich の3氏が2008年に MIS Quarterly で提唱したメディア同期性理論は、やりとりを2つに分けています。情報を渡すこと(conveyance)と、その情報の意味を揃えること(convergence)です4。
この理論は、情報を渡すだけなら同期性の低い媒体のほうが成績がよく、意味を揃えるなら同期性の高い媒体のほうがよい、と述べています5。
業務の依頼に置き換えると、判断の基準はこうなります。受入条件が決まっていて、渡すものが決まっている依頼は、非同期で足ります。定型の入力代行、既存手順の実行、承認済み内容の周知がこれにあたります。
一方、言葉の意味がまだ揃っていない依頼は、非同期に載せると往復が増えます。冒頭の見積依頼がそれでした。「この構成」が何を指すかが揃っていないので、型番を聞き返す1往復が要りました。この1往復に1日かかっています。
「うちはチャットで足りている」という見方はあります。足りているかどうかは、1件の依頼が終わるまでに何往復しているかを数えると分かります。3往復以上かかっている依頼には、意味を揃える往復が混ざっている見込みがあります。そこだけ15分の通話に回すと、往復の回数が減る分だけ返るまでの日数が短くなります。
待っている時間を、作業中と別に数える
すべての依頼を同期に戻す方向には行けません。全部を打ち合わせにすると、今度は予定を合わせるまでの待ち時間が出ます。週1回の定例でしか返事が出ない運用なら、1往復に1週間かかります。
決めるのは、同期か非同期かの割合ではなく、待っている間を記録に残すかどうかです。具体的には次の3つを運用に置きます。
- 依頼を受けた側が、いつまでに返すかを書く。作業の完了期限ではなく、返事を出す期限です
- 返事待ちを、作業中とは別の状態として持つ。読んだが返していない依頼が何件あるかを数えられるようにします
- 期限までに返事が出ていない依頼を、依頼者の手元に戻す。催促するかどうかの判断を依頼者に返します
この3つを置くと、冒頭の「設計は返事が遅い」という印象が、「返事待ちが平均1日半、件数は週7件」という数字に変わります。数字になれば、返事の担当を増やすのか、聞き方のテンプレートを作るのかを選べます。
PATHWORKで返事待ちを数える
PATHWORKでは、依頼と@メンションを「パス」という1つの単位で扱います。パスの状態は delivered(届いた)、seen(見られた)、acknowledged(受領応答済み)、replied(返信)、escalated(エスカレート済み)、closed(完了)の6つです。
返事待ちは、delivered のまま止まっているものと、seen になったが acknowledged にも replied にも進んでいないものです。前者は相手がまだ読んでいない時間、後者は読んだが返していない時間で、どちらも作業中ではありません。Inbox と Outbox から、自分が持っているボールと投げたボールをそれぞれ一覧できます。
上に挙げた1つ目、返事を出す期限を受け手が書く欄は「返答予定日時」です。受領するとき、受領・後で対応・追加情報が必要・辞退の4つから応答の種類を選び、あわせてメモと日時を入れます。日時の入力は任意ですが、ここに入るのは作業の完了期限ではなく、いつ返すかの日付です。
3つ目の、返事が出ていない依頼を依頼者の手元に戻す部分は、2つの仕組みに分かれています。未達タイムアウトは、既定では120分読まれないパスを送信者の通知に戻します。この時間はプロジェクト単位で5分から7日まで変えられ、送信者が個別のパスだけ延長することもできます。もう1つは督促で、seen になってから既定で24時間、受領応答も返信も無いパスに通知が出ます。後者が、この記事で扱ってきた「読んだが返していない時間」に当たります。
情報が足りないときは、受領の応答で「追加情報が必要」を選ぶと返しパスが作られ、ボールが送信者に戻ります。冒頭の「どの型番ですか」は、この形で返すと往復が記録に残ります。
限界も書いておきます。返答予定日時までの日数を集計して、返事待ちの平均を出す画面はありません。件数は Inbox と Outbox の一覧から人が数えます。項目を自分で追加するカスタムフィールドも用意していないので、返事待ちの理由を分類したい場合は依頼文の書き方で代えます。
運用で決めておくこと
- 直近1週間の依頼で、1件あたり何往復しているかを数えたか
- 3往復以上している依頼が、どの種類に集中しているか
- 返事を出す期限を、作業の完了期限と別に書く欄をどこに置くか
- 読んだが返していない依頼の件数を、誰がいつ見るか
- 意味を揃える段階だけ通話に回す条件を、何で判定するか
まとめ
非同期は、返事を出す時刻を受け手が決める形です。依頼が止まるのは受け手の作業の中ではなく、読まれるまでと、読まれてから返るまでの間です。この時間は発言の時刻としては残りますが、待ち時間としては集計されません。
同期に戻せば解決する話ではありません。予定を合わせる待ちに置き換わるだけです。分けるのは媒体ではなく依頼の種類で、渡すものが決まっている依頼は非同期のまま、意味がまだ揃っていない依頼だけ通話に回します。
次の一手として、直近1週間で終わった依頼を5件選び、最初の投稿から最後の返信までの往復回数を数えてください。3往復を超えたものがあれば、その依頼は何の意味が揃っていなかったのかを見ます。依頼がどの段階で日数を失うかの整理は依頼のライフサイクルの記事で、通知が届いたことと受け取ったことの違いはメンションの記事で書いています。
参考
本文中の番号をクリックすると、その記述の根拠にした原文にジャンプします。原文は改変せず、英語のまま載せています。
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Longqi Yang ほか「The effects of remote work on collaboration among information workers」Nature Human Behaviour 6, 43–54 (2022)
Here, we use rich data on the emails, calendars, instant messages, video/audio calls and workweek hours of 61,182 US Microsoft employees over the first six months of 2020 to estimate the causal effects of firm-wide remote work on collaboration and communication.
Abstract(記事の「2020年前半の6か月分」「同社の米国社員6万1,182人」の根拠) 本文の該当箇所へ戻る -
Longqi Yang ほか「The effects of remote work on collaboration among information workers」Nature Human Behaviour 6, 43–54 (2022)
Our results show that firm-wide remote work caused the collaboration network of workers to become more static and siloed, with fewer bridges between disparate parts. Furthermore, there was a decrease in synchronous communication and an increase in asynchronous communication.
Abstract(記事の「同期のやりとりが減り、非同期のやりとりが増えた」の根拠) 本文の該当箇所へ戻る -
Longqi Yang ほか「The effects of remote work on collaboration among information workers」Nature Human Behaviour 6, 43–54 (2022)
Together, these effects may make it harder for employees to acquire and share new information across the network.
Abstract 末尾(記事の「新しい情報を手に入れたり社内に渡したりするのが難しくなる可能性がある」の根拠) 本文の該当箇所へ戻る -
Alan R. Dennis, Robert M. Fuller, Joseph S. Valacich「Media, Tasks, and Communication Processes: A Theory of Media Synchronicity」MIS Quarterly 32(3): 575-600 (2008)
We expand on the original propositions of MST to argue that communication is composed of two primary processes: conveyance and convergence.
Abstract(記事の「やりとりを2つに分けている。情報を渡すことと、その情報の意味を揃えること」の根拠) 本文の該当箇所へ戻る -
Alan R. Dennis, Robert M. Fuller, Joseph S. Valacich「Media, Tasks, and Communication Processes: A Theory of Media Synchronicity」MIS Quarterly 32(3): 575-600 (2008)
Media synchronicity theory proposes that for conveyance processes, use of media supporting lower synchronicity should result in better communication performance. For convergence processes, use of media supporting higher synchronicity should result in better communication performance.
Abstract(記事の「情報を渡すだけなら同期性の低い媒体のほうが成績がよく、意味を揃えるなら同期性の高い媒体のほうがよい」の根拠) 本文の該当箇所へ戻る
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